お静かに
【お静かに】 信州小諸 桜と浅間山
「 (それでは) お静かに 」 ―― 桜の下で声を交わした年配の方はそう挨拶をして帰って行かれた。 信州・上田小県地方で使われていた大人の挨拶言葉であるが、聞くのは久しい。 「 お先に 」 と同じ使われ方をするが、相手への気遣いを含んだ床しい響きが何とも心地よい。
『信州上田付近方言集 (昭和7年 上田中学校国漢科編) 』 には、方言としての記載はないから、古くはこの地方あるいは信濃以外でも広く使われていたのかもしれない。 「 お静かに 」 ―― 使っていきたい挨拶言葉の一つである。
(13 April 2009 長野県小諸市 千曲川河畔にて)
”令和5年追記” 島崎藤村著 『千曲川のスケッチ』 小春の山辺の章より
古い釜形帽を冠って、黄菊一株提げた男が、その田圃道を通りかかった。
「まあ、一服お吸い」
と呼び留められて、釜形帽と鳥打帽と一緒に、石垣に倚りながら煙草を燻し始めた。女二人は話し話し働いた。
「金さん、お目はどうです ―― それは結構 ―― ああ、ああ、そうとも ――」などと女の語る声が聞えた。私は屋外に日を送ることの多い人達の生活を思って、聞くともなしに耳を傾けた。振返って見ると、一方の畔の上には菅笠、下駄、弁当の包らしい物なぞが置いてあって、そこで男の燻す煙草の煙が日の光に青く見えた。
「さいなら、それじゃお静かに」
と一方の釜形帽はやがて別れて行った。
鳥打帽は鍬を執って田の土をすこしナラし始めた。
注)小諸佐久地方では、「さいなら」は大人言葉として一般的でなく、前述の表現は 「それではごめんなすって、お静かに」 といった形になるものと思われる。
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コメント
匿名ですみません。
「お先です」「お疲れ様」に「お静かに」
という川柳を作った後、「お静かに」を調べていたところ辿りつきました。私は北信地方の自営業の者です。このような素晴らしい方とブログに出会えたことに驚いています。
投稿: JUN | 2023年5月26日 (金) 10:38
JUN様
ブログをご覧いただきありがとうございます。
JUN様の川柳
「お先です」「お疲れ様」に「お静かに」
―― 人々の日常がほのぼのと、そして作者のお人柄が
よく伝わってきます。「お静かに」 よい響きです。
投稿: 蒼山庵 | 2023年5月26日 (金) 13:02