小さなイス
【小さなイス】
南佐久の田口峠(1100m)を越えて関東側へ一里ほど下ると、広川原と馬坂の集落に出ます。 急傾斜地の段々畑、谷間にひっそりと屋根を寄せ合う民家。 馬坂川に沿って下って行くと、集落の子供たちが通っていた赤屋根の小さな分校があります。
窓が開け放たれ、先生の声が、子供たちの声が、オルガンの音が、この緑深い谷間に響いていたのは、そう ~ 随分と昔です。
峠から流れくる晩夏の風に校庭を覆った葛の葉がかすかに揺れ、馬坂川の川音だけが静かに響いていました。 長野県南佐久郡臼田町立田口小学校狭岩分校、閉校になったのは昭和47年3月です。
わが家の庭イスはこの分校で使われていたというイスです。 10年ほど前の夏の終りに知り合いの先生の紹介で譲り受けました。 昔懐かしいあの小さな木のイスです。 どんな子がどんな夢をもって座っていたのだろうかと、ふと想うことがあります。
(平成12年 夏の終りに)
17年間使ったこの小さな庭イスは、昨年の夏にその役目を終えました。 閉校 となって35年、山の分校がその後どうなったかは分りません。
(平成19年 夏の終りに)
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